ニュースの概要
国内最大級の木製家具メーカーであるカリモク家具が、オーディオデザイナーのDevon Turnbull氏と組み、新ブランド「音の家具」を立ち上げたと、オーディオ専門媒体のPHILE WEBが伝えた。Turnbull氏はニューヨークを拠点に、手作りのスピーカーシステムと、音楽を聴くための空間づくりで知られる人物である。家具を「置く道具」としてではなく、音楽が心地よく響くための装置として設計し直す試みだと読み取れる。スピーカーや棚、椅子といった暮らしの道具を、音を軸にひとつの世界観でまとめる。木工の技術を長年磨いてきた老舗が、音の分野に本格的に足を踏み入れた点に意味がある。
引用元: カリモク家具、オーディオデザイナーDevon Turnbullとの新ブランド「音の家具」(PHILE WEB)
分析・見解
家具メーカーが音の領域に踏み込む必然性
カリモク家具は愛知県で創業し、木の曲げや接合、塗装の技術を積み上げてきた会社である。スピーカーの音は、実は箱の素材、厚み、共振(=材が音に合わせて震えること)で大きく変わる。つまり木工の技術は、音響機器の質に直結する。
これまで音響機器の筐体(=外側の箱)は、電機メーカーが片手間に作る例が多かった。木のプロが正面から取り組めば、音と造形の両方で差をつけられる。今回の動きは、異業種への越境というより、自社の強みの延長線上にある。
Devon Turnbullという相棒の選び方
Turnbull氏は、ファッション界とも縁があり、音楽好きの間で熱狂的に支持されるデザイナーである。手作りのスピーカーを、彫刻のような姿で見せる。さらに、音楽を聴くことそのものを一つの場として設計する姿勢が評価されている。
技術の腕前だけで選ぶなら、国内にも候補はいた。それでも海外の個性派を迎えたのは、機能の説明ではなく、世界観そのものを売るためだと考えられる。家具は比較されやすい商品である。物語と作り手の顔があれば、価格競争から一歩抜け出せる。
「聴く部屋」が新しい贅沢になる背景
近年、レコードの売上は世界的に伸びている。米国ではレコードの売上が長く増え続け、CDを上回る年も出た。ストリーミング(=配信で聴く方法)で音楽は無限に手に入る。だからこそ、時間をかけて一枚を聴く行為に価値が移った。
在宅時間が増えた生活では、部屋の中に自分だけの聴く場所を持ちたい人が増えた。ソファの隣に置く棚、レコードを並べる収納、座って聴くための椅子。これらは家具の仕事である。音の家具というブランド名は、この需要を一言で言い当てている。
成功のカギは、量産と一点物のあいだにある
課題は価格と再現性である。手作りの味わいを保ちつつ、一定の品質で作り続けなければならない。限定生産に寄せれば話題は作れるが、事業の柱にはなりにくい。逆に量産へ寄せれば、Turnbull氏の持ち味が薄まる。
似た例として、北欧の老舗家具メーカーとオーディオメーカーの協業がある。成功した例は、定番の数点を磨き続け、色や素材の違いで広げていた。今回も、まず少数の代表作を決め、評判を集めてから種類を増やす進め方が堅実だろう。
ビジネスへの影響
家具・住宅関連の企業が今から検討できること
自社の素材や加工技術が、別の分野でどう価値になるかを棚卸しすることを勧める。カリモク家具にとって木工は家具の技術だが、音の世界では音質の技術になる。同じ技術でも、見る角度で売り先が変わる。
小売店や住宅会社は、音を軸にした売り場や提案を試せる。例えば、モデルルームに聴く部屋を一つ設ける。滞在時間が延び、会話の質が変わる。
異業種コラボを成果につなげる設計
コラボは話題づくりで終わりやすい。成果を測る指標を先に決めたい。見込み客の来店数、指名での問い合わせ数、既存商品への波及売上などである。
また、相手の個性を薄めない契約と、量産に耐える工程設計が要る。作り手の名前を前面に出す代わりに、品質の責任範囲を明確にしておく。小さく始めて数字を見て、続けるか広げるかを半年ごとに判断する形が現実的である。
中小企業が学べる点
大手でなくても、地域の職人や作家との協業は可能である。自社の技術を一つに絞って相手に開き、完成品の世界観は相手に任せる。この役割分担が、小さな会社が目立つ近道になる。
